2016年11月7日月曜日

「アートは資本主義の行方を予言する」 山本豊津 2015 ★★★



アートの世界で生きる友人と食事に行くと、如何に世界の各国が文化やアートを国家的戦略として見据えて育てているか、そして世界を俯瞰した際に現代におけるアート市場がどの都市を中心として回っているのかが話題にあがる。

そんな彼が「山本さんの本、読み終えたからどうぞ」と貸してくれた一冊。著者は日本で最初に現代アートを扱い始め、「もの派」などを世界に紹介した画廊として知られる銀座の東京画廊のオーナー。東京画廊は現在のように経済の過熱する前から中国でのアート市場とアーティストの可能性を信じ、世界に先駆けて北京の798アート地区にBTAPとしてギャラリースペースをオープンした画廊でもあり、世界を俯瞰する視点を持った数少ない画廊の一つでもある。

自分も東京画廊には縁があることもあり、ぜひとも読んでみたいものだと思っていたタイミングであったので、早速読み進めることにするが、ポイントとしては一般的にはよくその価値が分かりづらいと囚われがちなアートの世界が、実は非常に資本主義の本質を体現しており、希少性がいかに価値を決めていくか、そして中心に対する周縁の意味など、才能を持った限られた人間によって作り出される今まで存在しなかった作品に、いかに資本が流れていくのかをとてもわかりやすく解説する。

その脇で、東京で初めて現代アートを扱うようになった初代オーナーである自らの父親と、黎明期の画廊と社会の姿、そして海外から日本へ、そして日本から海外へと様々なアーティストが自らの画廊を通して社会に知られていくようになった様々な展覧会の意味。現在のアートの世界を動かす力までなった中国人アーティストとその市場にいち早く参与し、その現在の姿などなど、画廊という視点を通して見えてくる社会の姿を描いていく。

「美」とはなにか?

という喉元に突きつけられるような厳しい自問自答を毎日繰り返して長年過ごしてくる画廊主であるからこそ、最後は文化と美の本来的な意味に立ち返り本を締めくくるが、年々加速するネットショッピングのなかで見受けられる値下げ競争の姿に対し、まったく対極にあるように見えるアートの世界がいかに同じ資本主義の概念で説明でき、かつ存続しうるのかをすんなりと消化できるようになる、現代を生きる上でとても意味のある一冊であろう。

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■目次
第1章:資本主義の行方と現代アート――絵画に見る価値のカラクリ
第2章:戦後の日本とアート――東京画廊の誕生とフォンタナの衝撃
第3章:日本発のアートと東京画廊の歩み――脱欧米と「もの派」
第4章:時代は西欧からアジアへ――周縁がもたらす価値
第5章:グローバル化と「もの派」の再考――世界と日本の関係
第6章:「武器」としての文化――美の本当の力とは?

あとがき
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