2016年2月9日火曜日

大宮前体育館 青木淳 2014 ★★★


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所在地  東京都杉並区南荻窪
設計   青木淳
竣工   2014
機能   体育館
規模   地上2 階・地下2階
建築面積 2,963m2
延床面積 5,763m2
構造   RC造・一部S造
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武蔵野・三多摩巡りの締めくくりとして、レンタカーの返却まで少し時間があるためにかねてより見てみたかった青木淳設計による大宮前体育館に立ち寄ることにする。三多摩地域から23区域に入るとやはりいきなり密度が変わった気がするが、環状線を北上して杉並の住宅街を抜けて到着するのは、かつての杉並区立荻窪小学校の跡地。移転を機に、地域住民の健康促進のためになる運動施設を作ることを決定し、槇文彦、妹島和世、山本理顕、仙田満、北川原温などそうそうたるメンバーを抑えて最優秀賞に輝きプロジェクトを手にした青木淳。

横浜出身で、東大を経て磯崎新の事務所に長く勤め、35歳で独立しその後はルイ・ヴィトンに代表されるように、ほぼ国内のメイン店舗すべてを手がけその建築におけるイメージを確立させ、また青森県立美術館をコンペによって勝ち取り、文化施設なども広く手がけている。

1997年 遊水館(プール) (41歳)
1997年 潟博物館 (博物館) (41歳)
1998年 御杖小学校 (42歳)
1999年 雪のまちみらい館 (43歳)
1999年 ルイ・ヴィトン名古屋ビル (43歳)
2000年 ルイ・ヴィトン松屋銀座店 (44歳)
2002年 ルイ・ヴィトン表参道ビル (46歳)
2003年 ルイ・ヴィトン六本木ヒルズ店 (47歳)
2004年 ルイ・ヴィトンニューヨーク (48歳)
2004年 ルイ・ヴィトン銀座並木通り店 (48歳)
2005年 青森県立美術館 (49歳)
2006年 白い教会 (50歳)
2006年 ルイ・ヴィトン香港ランドマーク店 (50歳)
2008年 SIA青山ビル (52歳)
2010年 青々荘 (54歳)
2012年 ルイ・ヴィトン博多店 (56歳)
2014年 杉並区大宮前体育館 (58歳)
2014年 三次市民ホールきりり (58歳)

そして2014年に完成したばかりのこの体育館。東京だけでなく、日本中にどこにでも広がるような小中学校を中心にした学区。その中心施設である学校が移転することにより、急に地域に浮かび上がる巨大な空白。そこに挿入されるのは地域のためになるべく運動施設。

コンペの概要や各段階の提案内容の変化を見ていくと、一体何が議論の中心で、行政側が求めること、地域住民の求めること、そして建築家サイドがそれにどう反応したかが良く見えて非常に勉強になる。

まずは何と言っても住宅街に対して運動施設という非常に騒音と振動を出す施設をどう融和させるのかという問題。既存のほとんどの同様の施設は、この問題のために昼間でも窓を開放することなく、遮音用のカーテンを閉めて室内で運動をしている何とも嘆かわしい状況ばかりだという。そのためにコンペ案からいかにコストがかかろうとも、大部分の施設を地下に埋め、なおかつ構造を入れ子の形にして振動を吸収するという、ほとんど音楽ホール並みの対策をとる方針が採られたという。そのために地上に出てくるボリュームは平屋だけで、大小の二つの楕円形が敷地に快適な抜けの空間を作っているようである。

受付で建築の見学の旨を伝えると、非常に感じのよい対応で、見学者の名札を渡してくれて、内部での写真撮影だけは禁止だと言われるが他は自由に見学してよいとのこと。設計者がいう、できるだけ圧迫感を与えないようにと設えられた3層吹き抜けの波打つ壁はそれなりに効果を出しているように見える。

楕円形の外周は曲面ガラスをつかうことなく、ギザギザの直線のパネルでつくられていたりと、至る所にコストをできるだけ抑える工夫が見えてくる。屋上もアクセスできるようになっており、外にでると周囲の住宅よりも幾分か低く抑えられているために、見晴らしもよく、同時に周辺の住宅にも、今までは見通すことのできなかった向こう側までの視界と、なんと言っても良好な日当たりをもたらしたのだということが良く分かる。

なんといっても印象的なのが、この施設が本当にいろいろな年代の人によって使われており、内部に非常に活気が感じられること。勧められて手にした冊子によると、使用料金も非常にリーズナブルであり、もし自分が徒歩圏内に住んでいたらきっと通ってみようかと思うだろうと思うような、そんな施設の運営の仕方である。

このように、各自治体ごとに外からはなかなか見えづらくても、少しずつ新しい社会の変化、地域の変化に対応しつつ、機能を更新し新しいコミュニティの核となる建築ができているのを見ると、東京の面白さ、都市の力強さを感じることになる。そしてこういう機能を担う建築として、決して派手ではないが、十分に要求に答えそれ以上のものをもたらしているこの建物の正当性に思いを馳せながら帰路へと着くことにする。
















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