2015年3月6日金曜日

メルセデス・ベンツ博物館(Mercedes Benz Museum) UN Studio 2006 ★★★


今回の視察旅行の主要な目的地の一つであるのがこのメルセデス・ベンツ博物館(Mercedes Benz Museum) 。ネッカー川沿いの高速道路を北に走ると視界の先に飛び込んでくる未来的なその造詣。決して建築には見えないその姿は自動車産業の王者の一人であるメルセデスの殿堂としてふさわしい風景を作り出している。

ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)が2000年のテート・モダンによって一気に世界の舞台へと駆け上がったのと同様に、UN Studioも2006年のこのプロジェクトを契機に、一気に世界中でプロジェクトを手がけるスターキテクトへと変貌していった感のあるプロジェクト。

両プロジェクト共にコンペで勝ち取り、何万平米と言う巨大なプロジェクトを自らが拠点を置く国ではない場所で行い、その中で様々なコンサルタントとのやり取りやクライアントの要望の対応など、世界のトレンドとなっていく規模のプロジェクトをコンセプトから現場管理までどのように手がけていくのかの経験の蓄積をオフィスに与えて重要なプロジェクトだったのだろうと想像する。

通常の美術館ではなく、自動車メーカーの企業博物館という意味合いを持つ建物だけに、必然的にその展示物は車という巨大なオブジェとなってくる。同時に、年代ごとにデザインが更新され、技術の進歩と共に内部のエンジンなどの機構も変わってくる製品だけに、展示する内容物の数も膨大となってくる。

その為に通常の美術館で考える展示物と訪問者との距離の関係も変わり、また展示スペースの広さも巨大になってくる。その代わり、通常の美術館の様に光に対して繊細な絵画などを保護するために外部からの自然光をできるだけ遮断するブラックボックスとしての美術館から解放され、過酷な外部環境の中を走り抜ける車という特性も手伝い、内部に外部の自然光を取り込むことのできる展示ができるのも、またこの建物の特徴的な一面であろう。

ベンツのブランドマークのような三つ葉が、車の走る滑らかな軌跡や車のボディの流体力学から導かれた流れるような曲線に溶け出すようにしてつながり、さらに立体的に展開して二重螺旋の通路を作り出すのがこの建築の大きな特徴を決めている。

できるだけ平面的に広がりを持ち、縦方向の移動を極力避けるようにしてボリュームが決められる美術館であるが、この建物では逆に高さを逆手に取り、縦方向の移動空間を一箇所に集め、まず訪問者をエレベーターで一番上の階に持ち上げ、そこから三つ葉をスロープでつなげることで、全体を一筆書きの動線とした展示空間に沿って、「斜面を降りてくる」ことと「螺旋で高さを違えながら同じ場所を巡る」ことで、NYのグッゲンハイム以降ながらく更新されることのなかった、高さを持つ美術館空間への挑戦を行っている。

あまりに事前の期待値が高かったせいもあり、それほどの感動は感じなかったが、それでもやはり今までなかった建築にチャレンジし、今まで見たことのない空間を作り出しているのは素晴らしい。

まずは敷地の大部分を覆う、ゆったりとスロープする広場。ADAにも対応すべく1/12のスロープで作られているこの広場によって訪問者はゆっくりと歩きながらこの斜面を登り、たどり着くのは2階部分に設置されたエントランス。ガラスがセットバックしており庇の下に大きな半外部空間の溜まりがつくられている。このようなゆったりとした斜面に階段が設けられると、通常体験している階段よりも緩い勾配となり建築の階段ではなく、地形の中に作り出された階段のような感覚を作り出す。

内部に入るとすぐに目に飛び込んでくるのは円形をして多くの人を同時に対応できるレセプション・デスク。ここで同時にチケットも購入できる仕組みになっており、その奥にはこの建物の肝といえる背の高い吹き抜け空間が待ち受ける。

その脇には下の階へと吹き抜けになっている空間にエスカレーターが設置されており、博物館へと入らない人でも下階(実際の1階部)にあるミュージアムショップやレストランなどを利用できるようになっている。これはテロの恐れの少なく、その為に不審者や荷物チェックをしなければいけないアメリカや中国の美術館と大きく異なる部分である。

少し右に進むと三つ葉を構成するコンクリートのコア部にトイレが納まっており、その先にはクロークとロッカーが通路に面して開いている。チケットを購入して中に入ると、目が行くのは高いアトリウムとその上から差し込む自然光。この中心空間からは各階に配置されている展示区間がチラチラと見ることができ、漠然と全体のメンタルマップを作成することができる。

チケットを確認してもらい壁に沿って設置されているあたかも車のようなデザインのエレベーターに乗り込み最上階へ。この内部もまた未来的な素材とデザインとなっている。最上階は今までのコンクリートのブルータルな表情とは一変し、金属と布を使った未来的な雰囲気へ。その先には暗い空間に丸い照明を当てられた馬が一頭待ち受ける。馬力から車への物語のプロローグということらしい。

そこからは緩やかに曲がる曲線にそって、スロープを下りていき、各階にフラットに開けたメインの展示空間と、スロープ上に壁に沿っての展示を交互に見ていくことになる。ところどころに中心のアトリウムへと開けた空間が設けられており、螺旋という単調になりがちな空間において、自らの位置確認ができるようになっている。

同時に螺旋や円の回転運動という、方位の内動線をどうにか周囲のコンテクストに関係付けようという意図なのか、外部にも多くガラスの開口部が設けられ、螺旋運動と共に変化する外の風景を内部に取り込もうとしているようである。

「螺旋運動」で構成された展示空間と思ってしまうが、どうしてもそれだけでは使い切れない空間が残ってしまう。その為にところどころで動線が二股に別れ、そのサブの動線では行き当たりで戻ってこないといけないことが起こる。

コンセプトばかりが流布され、それだけでは解決しきれない問題はあくまでもそのままの形で取り残されていることに、建築という生生しさを感じながら先を進む。

螺旋という回転運動は、最初は物珍しさも手伝って進むことに開ける風景を楽しむことができるが、それが二度三度続くと、今度は逆にその先に待ち受けているものが見なくても想像できてしまうという悪循環に陥る。素材を変えて空間の雰囲気を変えようと何かしら手を打とうとしたことは理解できるが、根本的な空間の質としてはやはり同じものである。

恐らくこの様な動線計画の美術館は、やはりグッゲンハイム程度の規模の建物が最適で、退屈と感じる前に地上レベルに到達することと、螺旋に取り付く空間をどう差異化していけるかが重要であるのを理解する。

恐らく、車メーカーとして「あれもこれも展示したい」という数の問題があったのだろうと容易に想像できるが、メーカーとして自らの歴史を伝えるために必要だと想定する展示する車の数と、建築のコンセプトにあった展示物の数とが乖離しているように思えて仕方がない。

しかし、このアイデアは車の展示という出発点があったからこそのものであろうからその自己矛盾はどうしようもないが、3000平米ほどの美術館でこのような動線計画を採用することができたなら、恐らく素晴らしい建築ができるのではと想像を膨らませる。

地上レベルに達して今度は水平方向に広がる空間にちりばめられた教育施設やミュージアムショップなどを見ながら、反対側に設置されているショールームまで足を伸ばす。その後中間に位置するレストランで遅めのランチを食べながら、横の席ではなにやら仕事仲間の集まりで表彰をしているのを見て、恐らくベンツの販売店の従業員でその表彰などもこの施設でしているのだろうと想像を膨らませる。

食事をしながら考えをめぐらせると、全体がスロープとしてシームレスに繋がる展示空間であるが、そのスロープの幅が2mほどしかなく、壁面に設置された展示を見る人がいたり、二人組みで歩いていたりすると、その脇を通り抜けるのはやや難しい寸法となっている。

またフラットな部分に設けられた展示も、その脇に繋がるスロープを効果的に展示空間として利用しているかといえば、アンフィシアターにするのか斜めの展示台とするのかの二つのアイデアしか見かけられず、この建物ならではの展示体験を引き起こすまでには至っていない。

何はともあれ、これだけの規模の博物館を、これだけ新しいことにチャレンジしながらも各部が破綻することなく、しっかりと建築として機能しているということはそれだけで凄いことだと、日々設計の中で苦しんでいるだけに実感を伴なって思う。

しかし、この建物が完成したのがほぼ10年前であり、我々の建物が完成するのが5年近い後だと考えると、どうやってベンツ後の美術館のあり方を作り出せるかを再度腰をすえて考えなければいけないと思いをめぐらして建物を後にする。


































































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