2015年3月26日木曜日

「深呼吸の必要」篠原哲雄 2004 ★★

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スタッフ
監督 篠原哲雄
脚本 長谷川康夫
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キャスト
立花ひなみ:香里奈(少女期:熊本奈那子)
池永修一:谷原章介
西村大輔:成宮寛貴
土居加奈子:長澤まさみ
川野悦子:金子さやか
辻元美鈴:久遠さやか
田所豊:大森南朋
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 「なんか見たことある顔だなぁ。それにしても特徴的な顔だよな・・・」と思いながら調べてみると主役の女優が香里奈だということを知る。「10年前はこんな感じだったんだ・・・」と新鮮な感じを受けながらも、谷原章介、成宮寛貴、長澤まさみ、大森南朋と今ではすっかり御馴染みとなった役者人が脇を固めるその豪華布陣に少々違和感を感じながらも見終える一作。

かつて事務所のスタッフの彼女が、思い立って沖縄の石垣島にサトウキビの収穫の住み込みバイトをするので、数ヶ月向こうに移るんですという話を聞いたことがある。その時にリゾートバイトとは違って、沖縄の地でゆっくり流れる時間の中での日常に触れる生き方もあるのだとしみじみ思っていた。

最初の10分を見ていると、まさにこの映画はその彼女が過ごした日々と全く同じ時間を描いていることだと理解する。東京や他の都市から遠いこの沖縄へ。そしてさらに離島という今まで自分が過ごしてきた喧騒と一番遠い場所にあるようなこのサトウキビ畑と沖縄の民家。それぞれがそれぞれなりに、何かから逃げ、もしくは何かを求めこの地にやってくる。

このバイトに申し込んだ5名のバイトと古株の先輩。そしてサトウキビ農家を営む老夫婦。都会のようにすぐ近くに様々な娯楽や楽しみがある生活ではなく、非常に密接で限られた社会の中で時間を過ごすことになる。

その中で徐々に見えてくるのは、なぜ彼らがこの地に来なければならなかったかの理由。上記したように、あるものは何かをこの沖縄の青空の下に求め、そしてある者は都会から逃げ出すようにしてこの地にたどり着く。

それぞれが触れられて欲しくない部分を持ちながら、互いに深くこの地に来る前の生活には踏み込まない。その微妙なバランス感覚。日の出とともに起きだして、皆で食事を取り、広大なサトウキビ畑は最初はあまりにも巨大すぎて、とても時間内に終えることはできないと思うが、それでも毎日少しずつでも確実に自分たちのやったことの成果が目に見えることは、生きていることの実感を感じることのメタファーであり、都会で生活するためにしてきた仕事とは全く違った労働のあり方として提示されているのだろう。

それでも根底にあるのは、タイトルが示すとおり、「ここで深く息をすって、今までの自分の時間の生き方を見直そう」という、立ち止まる場所としての沖縄。そして異邦人としてやってきては去っていく都会に住まう若者たち。古株として季節労働者のような生活をする先輩もまた、「仮の生活期間」を延長しているだけであり、いつかはまた都会へと足を向ける日が来るのだろうと思わずにいられない。

社会の中の役割やポジションはそれぞれ違うが、それでも社会のに染まり、流されるままに生きていくことができない不器用さをもてあまし、自分なりの危機感を持って一度立ち止まることを選択する。誰もが、今の日常の中で自分らしさを失ってしまっていると感じ、何かを変えるために訪れる島。

会社名や職業などの社会の中で背負わなければいけないレッテルを剥ぎ取り、一人の人間として素性を知らない人々と生活をともにする。しかしそこでも、如何に小さくとも社会があり、人間関係が存在する。その矛盾。

日本を降りてタイに向かっても、都会を離れ離島に向かっても、人が生きる限り社会があり、誰かと関係をもって暮らしていかなければいけない現代社会。重要なのは、流され
自分を失うのではなく、スピードの中でもなんとか自分でハンドルを握り、少しだけかもしれないが進み方を制御する。そんな力をつけることなのだと思いながら映画を見終える。














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