2015年3月4日水曜日

ミュンヘン・オリンピックスタジアム フライ・オットー 1972 ★★★★


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所在地  ミュンヘン、ドイツ
設計   フライ・オットー(Frei Otto)
竣工   1972
機能   競技場、公園
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せっかくなのでと言うことで、ガイドの人と一緒に3人そろってオリンピック公園に向かい、その歴史や建物を説明してもらいながら見学することに。

広大な都市公園として整備されているこのオリンピック公園。全体が緩やかな起伏を持った地形となっており、その地形の中に埋まるようにして様々な建物が配置されている。ランニングをする人や家族で散歩を楽しむ人など、様々な人にとって憩いの場として都市の一部になっているのが見て取れる。

話に行くと、戦後に街に溢れた瓦礫をどうにかするために、この公園の地形は瓦礫を敷き詰めその上に土を持って起伏を作っていると言う。これはぜひとも日本でも東北の復興の一環として取り入れてもらいたい。津波の瓦礫が美しい公園の下地として使われるのなら、デザインの力を見せるのにもってこいの場であるだろう。

伸びやかに水平に広がる公園のシンボルとなるのは、すっくりと細く伸びたオリンピック塔。190mのところに展望台があり、そこからは都市全体が見渡せ、最高だかさは290mにも及ぶと言う。

全体的に緩やかに傾斜している地形は全体として面の排水路としても機能するらしく、ところどころ足元に排水枡が設けられている。地形と建物を一体として考えることから生まれてくるこれらのデザインは40年以上経った今もやはり素晴らしいと感心する。

徐々に高くなる地形の先にはまるで巨大な蜘蛛の様に鉄製の足でつっかえるようにしてネットを支える巨大な構造体が見えてくる。これこそが建築の歴史で永らく語り継がれる構造家であり建築家であったフライ・オットー(Frei Otto 1925年-2015年)の代表作品。

もともとこのオリンピックスタジアム(Munich Olympic Stadium)は建築家であった建築家ギュンター・ベーニッシュ(Günter Behnisch)と構造家フライ・オットーの共同設計によって成し遂げられた。その中でもケーブルやネット、また膜を使ったテンション構造などを構造の面から研究していたオットーの先見性が大きくこのプロジェクトにて花開いたといってよいであろう。

一つの蜘蛛の様に見えていたが、その下には二つの建物が納められている。左手には傾斜地に埋められるようにしてオリンピック・プールが。斜面がわの入り口からアプローチすると客席部分になり、上からプールで泳ぐ人々を見下ろす形になる。右手には劇場が同じく配置されている。

ここまでくると、その巨大な膜構造とされた屋根のダイナミズムを感じることになる。屋根の下に入ったという体験をしながらも、それでも建築の内部空間には入っておらず、横方向には外部と繋がった都市空間が広がっている。この空間体験は、広い屋根のかかったテラスの延長のようなもので、安心感とともに都市に開かれた開放感を味わうことになる。

構造的に最適化されているために所々で対称形をなっており、それがある種ゲートとして人々を裂きにいざなう。その流れに誘われながらさらに先に進むとメインのオリンピックスタジアムが見えてくる。こちらもスタジアム時代は地形の中に埋まるように設置されているので、通常のスタジアムのような巨大で威圧的な圧迫感は感じない。それよりも、軽やかにリズムを作り出す屋根に沿いながらスタジアムの客席が形状を変える、その自然な馴染みかたについつい足も進んでいく。

かつてロンドンのAAスクールにて建築を学んでいる折に、フライ・オットーがレクチャーに訪れた日を思い出す。高齢の為に非常にゆっくりした動作で、水を含みながら言葉を確認しながら話すその姿は、建築の歴史に名を刻んだ人物としての感銘を十分に学生の自分に与えた。

「蟻をそのまま巨大にしても、そのままのプロポーションの足では自らの身体を支えることはできない」

と、自然界における大きさと比例のバランスの中で生まれる自然な構造体について話していたのを今でも思い出す。

  「建築は地震や水害など自然の暴力に対抗しているが、問題はその必要性がない所でも、自然と対抗していることだ。建築家は、周囲の自然や人類全体の発展に対して、最大限の注意を払わなければならない」

という彼の想いを受け継いで、現代を生きる我々がどのように建築と自然との新たなる関係性を築いていけるかが問われているのだと改めて感じながら傾斜を降りることにする。




























































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