2014年10月8日水曜日

「「夜のオンナ」の経済白書 ――世界同時不況と「夜のビジネス」」 門倉貴史 2009 ★

「消えた高齢者」「格差社会」「極点社会」などと不安をあおる様に現代社会の問題点としてNHKから定期的に発信されるメッセージ。

恐らく今年のキーワードは「女性の貧困」なのだと思わなければいけないくらい、今年は年初からいたるところから「シングルマザーの貧困」についてテレビで取り上げられたり、書籍で語られたりしている。

今まではサラリーマンの夫と専業主婦の妻に子供という標準的な家庭像を元に国が運営されてきたが、グローバル化の競争社会、効率向上の為に非正規雇用、女性の社会進出、核家族化の定常化、自由意志による結婚と離婚などなど、様々な要因が重なって世の中の様子は随分様変わりした。

サラリーマンの夫だけの収入ではなかなか家庭を支えられないのにも関わらず、女性側の意識が変わることはなかなか難しく、それでもやはり専業主婦として職場のストレスから離れて生活していきたいと思う人の数はなかなか減ら無い一方、仕事をする女性が増えて、自分で自由にできるお金もあり、自由にできる時間もあり、社会で認められる喜びもあるうちに、加えて自分にふさわしいと思う男性像も右肩上がりで上昇する。

都会にいれば、出会いは腐るほどあるという先入観も手伝って、結婚に踏み切る時期が遅くなるのは止む得ない。そういう層がいる一方、早く結婚して子供もできたが、夫が思ったようには家庭を大切に扱わず、もろもろの理由で離婚などして子供を育てるための十分な経済的余裕を持てない状態に陥る人々もいる。

男性の場合は、非正規労働者やホームレス、ネット難民などとしてすでに分かりやすい形で社会の弱者として何度も取り上げられてきたが、その背後でなかなか見えなかった女性に光を当てて、現代社会の一面として取り上げられる女性の貧困。

都会で一人暮らしする女性の貧困率。子供を抱えシングルマザーとして働きながら子供を育てる女性の現状。低賃金の溜めに親元を離れ、より良い機会をつかむことができない女性達。

そんな女性が、その経済的負担を少しでも軽くしようと、短い時間で高収入を得る方法として飛び込んでいくのが夜の世界。そうなると、この夜の世界の経済状況を理解しなければ、現在の女性の貧困の本質が見えないのではと繋がってくる。

この国ほど、水商売や風俗が当たり前の風景として街の中に入り込んでいる国も珍しいと思うほど、性産業が生活のかなり近い部分に存在する。甘い蜜に吸い寄せられる昆虫のように、夜な夜な闇の中で彷徨う男性の懐から流れ落ちる膨大な金が、どのように夜の世界で流通し、実際どこに消えて、どう使われているのか、そして彼女たちはそれで何を手にしていくのか。

そんなことが理解できる一冊かと思って手にしたが、統計学的な数字が並べられるだけで、本当に見たいドロドロとした闇の世界の支配者の姿。そしてその構造に気づかずにそちらの世界に足を浸していく女性の姿。そして夜の街の風景の裏に隠れる様々な利権構造を炙り出すには程遠い内容で少々がっかりとしてページを閉じることにする。

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■目次
はじめに
第1章 搾取される開発途上国の「夜のオンナ」たち
/開発途上国の男性優位社会が売春を促す
/タイの「夜のビジネス」はベトナム戦争の遺産
/サイクロンの季節になるとミャンマーで売春婦が増える理由
/東南アジア「セックス・ツーリズム」の仕組み
/カリブの買春ツアーの主要目的地ドミニカ
/美しすぎる売春婦には要注意
/ベトナムのカラオケ店は売買春の温床
/児童買春の問題が深刻化するフィリピン
/わずか5万円で売られる脱北者の女性
/中国の経済発展とチベットの売春ビジネスの関係
/中国で建設計画が浮上したセックス・テーマパーク
/インドの売春宿で「性の奴隷」にされるネパールの少女
/スマトラ沖地震に乗じて救済を装った人身売買が横行
/人身売買ビジネスは現代版の「奴隷貿易」
/欧州最大の性奴隷供給国モルドバ
/国際的な人身売買の中継地となるキプロス
/旧ソ連からトルコに流入した「ナターシャ」
/東欧諸国で売春が合法化された理由
/チェコに登場した世界初の「ゼロ円売春宿」
/コンドームの無償配布でHIV感染抑制に成功した国とは?

第2章 合法と規制の挟間で揺れる先進国の「夜のビジネス」
/先進国の「夜のビジネス」の仕組み
/米国デンバーで買春するとテレビで顔と名前が晒される
/「ハリウッドマダム」のスキャンダル
/エイズ対策担当調査官も顧客だった「DCマダム」
/下半身スキャンダルで辞職したニューヨーク州知事
/米国のアダルトビデオ市場は4222億円
/米国のポルノ雑誌市場は1100億円まで縮小
/ネットオークションに処女を出品、3億円の値が付いた女子大生
/英国でブームの「ドッギング」とは?
/合法化されたオランダの「夜のビジネス」はどうなったか?
/売春宿が株式上場したオーストラリア
/03年に売春を全面的に認めたニュージーランド
/「夜のビジネス」への規制強化に乗り出した北欧諸国
/ドイツでオープンした「セックス・アカデミー」とは?
/シニア割引を適用する売春宿が登場

第3章 日本の「夜のオンナ」最新事情
/締め出される「風俗案内所
/わいせつDVD販売に対する規制も強化
/児童ポルノは所持するだけでも罰金の対象に
/人身売買の「監視対象国」に指定された日本
/未成年者売買春の場は、「出会い系」から一般的な「SNS」へ
/無店舗型風俗の低価格競争
/営業禁止地域でも性風俗店が営業できるカラクリ
/お隣韓国では買春男性も摘発されるように

第4章 世界同時不況と「夜のオンナ」
/金融危機が「夜のビジネス」を直撃。エコ割引も登場
/カジノの収入減がセックス関連産業にも影響
/スペインで増加するサブプライム売春婦
/イタリアで増加する外国人売春婦
/ポルトガルとギリシャでも外国人売春婦が急増
/新型インフルエンザで売り上げが半減したメキシコの売春宿
/日本の「夜のビジネス」にも世界不況の影響が及ぶ
/ホステス→キャバクラ嬢→風俗嬢という玉突き現象
/外国人女性が在籍する安価な店に客足がシフト
/「裏ビデオボックス」の価格破壊
/AV女優のギャラもジリ貧
/風俗嬢の給料低下がホストクラブ業界にも波及

第5章 「セックス税」導入のススメ
/「タバコ税」「酒税」のように「ゼックス税」を
/「セックス依存症」という恐ろしい病気
/『カリヴァ旅行記』でも登場した「セックス税」構想
/売春合法化の是非
/「セックス税」をすでに導入しているドイツのケルン市
/1回5ドル。米国ネバダ州の「セックス税」導入案
/日本で「セックス税」を導入すると94億円の税収増

おわりに
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