2014年6月3日火曜日

クエリーニ・スタンパリア財団 Querini Stampalia Picture Gallery カルロ・スカルパ 1963 ★★★★★



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所在地  ヴェネツィア(Venezia)
設計   カルロ・スカルパ
竣工   1963
機能   美術館
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ベニスで一番見たい建築と言えば、恐らく上がってくるのがサン・マルコ広場に面する、カルロ・スカルパ設計によるオリベッティのショールームの魅惑の階段と、そしてもう一つが同じくスカルパ設計によるこのクエリーニ・スタンパリア財団であろう。

ベニスと言えば、サン・マルコ広場を始めとした中世の素晴らしき都市空間が思い出されるが、建築家として思い出されるのは、後にそのスタイルがパラーディオ・スタイルとして西ヨーロッパに広がった16世紀を代表するアンドレア・パラーディオと改修やインテリアなど都市の中に埋もれる小さな建築に壮大な世界観を表現した20世紀のカルロ・スカルパ。

ベニス北西の街;ヴィチェンツァで活躍したパラーディオはその業績によってベニスでも重要な仕事を受注する。それが1564年のサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂、そして1578年のペスト終結の願いをかけたイル・レデントーレ聖堂。

ベニスの運河を走る水上タクシーを利用していると対岸に見えるのがこの二つの聖堂。ベニスの顔をして長い年月のなかで風景の中で重要な位置を占める建物を設計した中世の建築家;パラーディオ。そのパラーディオに対して古い建物の改修などで規模は小さいが、確実にベニスの都市の風景の高さを作り出すスカルパの建築。

カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)は1906年にこのベニスにて生まれる。驚くことに人生の最後は来日中の仙台にて1978年に迎えている。素材の扱いと、独特のディテールによって、小さな空間の中に無限の広がりを作り上げることに成功した建築家である。

重要な作品としては

アッカデーミア美術館 (ヴェネツィア)
ヴェネツィア・ビエンナーレの中央館(ジャルディーニ公園)
パラッツォ・フォスカリ、ヴェネツィア 1935 - 1956 (29歳-50歳時)
ヴェネツィア・ビエンナーレ・ベネズエラ館、 1954 - 1956 (48歳-50歳時)
カステルヴェッキオ美術館改修、イタリア・ヴェローナ 1956 - 1964 (50歳-58歳時)
オリベッティ社ショールーム、イタリア・ヴェネツィア、 1957 - 1958  (51歳-52歳時)
クエリーニ・スタンパリア財団改修、イタリア・ヴェネツィア、1961-1963 (55歳-57歳時)
ブリオン家墓地, at San Vito d'Altivole, Italy, 1969 - 1978 (63歳-71歳時)
ヴェローナ銀行増改築、イタリア・ヴェローナ、 1973 (67歳時)

つまりこのクエリーニ・スタンパリア財団のプロジェクトはキャリアの後期の作品となる。ベニス郊外に位置するブリオン家墓地に時間があれば足を伸ばしたいと思っていたが、イタリア人に聞いて見るととてもじゃないが数時間で足を伸ばせるような距離感ではないという。

ベニスで見ることができるスカルパ作品の中では恐らく一番の規模とクオリティであると思われるこのクエリーニ・スタンパリア財団。恐らくこのタイミングを伸ばすとチャンスが無いだろうということで、アーセナーレ(Arsenale)の会場に行く前に立ち寄ることにする。

密度の高い街並みの中にポッと開けた広場の片すみに、良く見なければ見逃してしまいそうではあるが、しっかり見るとなんとも特徴的なディテールをもったベンチと、そこから伸びる橋が目に入ってくる。人の手の痕跡が感じられる痛い程に角の立ったディテールで飾られた橋を渡りエントランスにたどり着くと、そこは既にスカルパ・ワールド。

凹凸に溢れながら、それが過剰ではなく豊饒な建築空間を作り出す素材の扱い。人が通り、触れる場所には必ず何かしらの素材の扱いがあり、視線が変わることによって体験する空間も変化する立体的な奥行きを持ったスカルパの建築を感じることが出来る。

内部は、美術館と図書館、それにバーが入っており、ショップと一緒になっているチケット売り場で聞いて見ると、「丁度このビエンナーレの開幕に会わせてスカルパの展覧会が明日から開催されるので今はそのスカルパ展の部分は見ることが出来ない」と言われる。他の美術作品の展示は見ることできるというが、なんとか見せてもらえないかとイケメンのイタリア人スタッフが頼み込むが流石にダメだという。

「今夜はSANNAの妹島和世さんが今夜展覧会のオープニング・イベントの一環としてトークを行う」という。何時からかを確認するが、どうやら今夜のスケジュールを考えると見に来るのは少々難しそうである。

多くの絵画が展示されている美術館部分をざっと見終えて、スカルパの手による中庭へと足を向ける。建築家であればスカルパがこの美術館の改修で一番時間を費やしたのがこの空間であるということを理解し、そのクオリティの高さに驚愕する空間でもあるだろう。

入口が低く抑えられその前に立体感を持って立ち上がるコンクリートの壁。その隙間からその奥に広がる豊かな空間が水盤の音と共に壁沿いに伝わってくる導入部。その壁のデザインに足元を走る水の流れ、そして背景となる緑の壁に、微妙に高さを変える足元のデザインに、3次元でのデザインの在り方を教えてくれるようである。

恐らくベニス大学の学生と思われる若者がこのバーでお喋りをしている。自分が学ぶ街でビエンナーレがあり、至極のスカルパ空間でこうしてお茶をできる。それがどれだけ豊かな体験として自らの身体の中に蓄積していくのか、恐らくまだまだ意識することが無いだろうが、これは建築家としての将来に大きな財産になるのだろうと勝手な想像を膨らませて中庭へと進む。

決して大きくは無い空間であるが、視線をどう受け止めて、どう流すか。人が視覚と聴覚によって空間をどう把握し、どう動き、その中で手に触れるものがどう変わり、目に見えるものがどう移ろい、そして移動するたびに見えてくる異なる水の扱いとその水音。

人が身体を動かす時にどう視線を移動させるのか。それを知り尽くしたかのように、必ず視線の先にはスカルパの手の痕跡を残すディテールが待ち受ける。同じくスカルパ設計によるジャルディーニのビエンナーレの中央館内部の中庭のデザインにも共通する部分もあるが、遥かにこちらの中庭のほうがより緻密にそして、効果的に設計が行われているのが良く分かる。

視点の高さと空間の奥行きとそれを受ける壁面の高さ。視点が変われば人が感じる空間の質も変化し、人が動けば見える世界も変化する。その移動の中でどう設計をするか。それを理解することと、それが実際に設計の段階で応用できることは同意ではないと言うことを建築家は実務の中で徐々に理解することになる。さらにそれが誰かの直截的な模倣ではなく、自分の設計として使えることは更に深い理解と経験が必要となる。

そこまでたどり着くためにも、まずはこの空間の豊かさを自分の身体で経験し、それを言葉ではなく理解し、そして何が自分達の設計に応用することができるか、その意味を焦ることなくじっくり考えながら、日々の設計に向き合うしかないと改めて理解することになる。








































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