2014年6月2日月曜日

「東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム」 東浩紀 北田暁大 2007 ★


なかなか面白そうな二人の著者が東京を語るというので興味を持って手にしたのはいいが、読み終わるのに3年近くかけてしまった一冊・・・

世に溢れている「下流社会」や「ファスト風土」など、危機感を煽るのはどうしてもマーケティング視点からの郊外への分析が多いなか、社会学者として十分な実績を持つ二人の学者がどう本丸の東京を分析し語るのか楽しみな一冊である。

内容を見ていくが、渋谷、青葉台、足立区、池袋と多中心都市として都市の中にさらに小さな都市を内包し、それぞれの場所性を作り出している東京らしく、それぞれの場所から東京を眺めるという手法と取っているのは目新しいのかと思われる。

しかし全体として、どうして東京がこれほど掴みどころのないのにも関わらず、世界中の他の都市が作り出すことのできない不思議な魅力を持ちえているのか。そして現在の東京の課題とは何か、それを克服し次のステップの東京の都市としての姿とは何かというような視点がまったく無く、あくまでも対談として二人の社会学者が好き勝手話している中から東京を読み解くヒントがでてくるのではという感じに終わってしまっている。

やはり未熟でも思いを持って、何年もの時間をかけて自分なりのテーマや主題をもとに東京に立ち向かい、少なくとも新しい見方を描き出し、自分なりの課題を設定し、より魅力的な、少しでもベターな東京の姿を示し、そのために建築や都市計画ができること、行政や経済界からのどのような協力が必要になってくるのか。そんな情熱を一冊にまとめた本のほうがやはり読み応え的には適わないのだろうと納得してしまう一冊。

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1 渋谷から都市を考える
/東京のサブカルチャー的多様性 
個性がある街が減りつつある
アキハバラの再開発 下北沢の再開発計画
21世紀の都市の理念で「個性ある街」が必要とされているのか
複数の小都市が集まったモザイク都市
趣味が街を作る

/「ヴァーチャルな地元」としての渋谷
ヴァーチャルな地元
東京への帰属心
認知しうる最大の都会
横浜というのは一個の地方都市 東京の郊外ではない
藤沢や座間は「横浜の郊外」

/自足した地方都市・横浜
他のいわゆる「地方都市」とちょっと違う 東京に対するコンプレックス、あるいは自らのローカリティに対する恥じらい、みたいなものをあまり持っていないように見える

/子供とクルマは郊外生活の必需品
中目黒は「子無し、非地元民」にとっての居場所が山ほどある
ライフスタイルの中に車

/渋谷のモザイク感
西武=パルコが演出した広告都市としての渋谷
オタクの秋葉原とおしゃれな渋谷の二項対立

/匿名的な「新しい地元」
ストリート=第4空間
地域でも家庭でも学校でもない

/「ニート的」環境をめぐる議論
松原隆一郎さん
ニートのライフスタイルはコンビニやファミレスと結びついている ダイソーがあってセブンイレブン デニーズ
それないに最低限「快適」な 僕の言葉で言えば「動物的」な けっこう安価で提供されている環境

/失効した東京論
建築が都市風景を決定していない
いま都市や東京について語ることの意味がわからない

/広告都市と広告郊外
東京の郊外の新興住宅地 いままでひとがすんでいなくて何の物語もないところ デベロッパーが新しい物語を被せて作られていく
住宅を買うだけではなく、ライフスタイルを買うことであり また物語を買うこと 等級田園都市線

2 青葉台から郊外を考える
/青葉台はいつ誕生したのか
集団下校
タブのアンテナ
子供見守りサービス

/「トゥルーマン・ショー」的な住宅街
似たような世代の似たような階層の人たちが一斉入居
画一的
規範的

/街に隙間が無い
郊外居住地に寝泊りするだけの「大人ー通勤者」的な観点

/「郊外」のヴァリエーション
区別
「国道16号線的」な郊外
大型ショッピングセンター ロードサイドショップ 均質空間 松原隆一郎 80年代
★ 自動車による移動を前提とした消費空間を生み出し、駅前商店街のような歴史性のある消費空間を解体していく。駅前は寂れて国道沿いが栄えている、という地方都市は実に多い。
改正都市計画法 床面積1万平方メートル超のスーパーとかの郊外進出が抑制される
「失われた景観」
どこへ行っても同じ風景、都市機能
似たような階層に所属する人が、非多様なライフスタイルを実践するために作られたテーマパーク それが郊外

/「広告都市」と「広告郊外」の対応関係
広告都市・東京
渋谷が広告都市で青葉台が広告郊外
73年から76年におかけての線開発、77年から80年にかけての面開発、81年以降の広域開発
来訪者の「回遊性」 ぐるぐる年を歩き回る

3 足立区から格差を考える
/記号的空間と動物的空間
渋谷が「ジャスコ的」 恵比寿
お台場のヴィーナスフォート
テーマパーク的 「記号的に閉じられた空間」

/なぜ、ガーデンプレイスは「ジャスコ的」に見えるのか 
文化資本高い感
西欧という記号性
大崎と同じく「工場の街」だった恵比寿
スカイウォーク
「外部」を遮断する

/経済資本と文化資本の切断
昔は金持ちに教養があったのは、百科事典なりピアノなりが高かったから
情報へのアクセスを制限されることは稀になってきている
一方では凄い金持ちでもジャージ着て歩いているし、逆に年収200-300万円の生活水準でも、それなりに豊かな文化生活を送ることができるようになっている。

/「下流社会」への疑問
サブカルチャー神話解体
マーケティング的な分類学
ネットとゲームに没頭して、ポテトチップスを食べているようなライフスタイルを「下流」の典型


/経済格差を覆い隠す装置
ライフスタイルの格差が「見えにくい」
富の格差とライフスタイルの格差が連動しなくなっている
同じ都市風景画見えないデータの下ではまったく違う街に見えてきたりする

/億ションとジャスコ
東雲キャナルコート 
地区はもと工場地帯ですから、商店街なんて無いわけです。住民の生命線は、併設されているジャスコ
ジャスコが生命線


4 池袋から個性を考える
/池袋と西武
東京郊外の私鉄沿線の住民はターミナルで行動範囲が限定される

/北京の都市再開発 
テーマパーク 二種類のものが指されている 幻想の共有 広告都市、下北沢のテーマパーク セキュリティとバリアフリーが徹底されて人間工学的なテーマパーク
松原隆一郎さんはそういう「工学」を批判している

職能集団の街
セキュリティ 防犯や防災

/なぜ漫画家は中央線沿線に集まるのか
ある時期以降の東京においては「趣味」とういものが、街を形成していく上で重要なファクターになった。コミュニティ・オブ・インタレスト
秋葉原、下北沢、原宿、渋谷
専門性が街を作る

/風景の東西格差
風景画「都心内郊外」と「職能集団の街」に分裂する

5 東京からネイションを考える
/都市を覆う人間工学的デザイン
コスト感覚で決まる
大勢としては、街の記憶を犠牲にして、低コストでセキュリティやアクセシビリティを確保する人間工学的なデザインが都市を覆っていくのは、もやは避けられないと思うわけ
国道16号線的な光景も、実際にはそうやって選ばれている。

/「バックラッシュ」言説が支持される理由
結婚は一種の契約なので解消できる
しかし親子は契約ではない

/「共感」はいかに生み出されるか
「小さな共感可能性」
みんながみんなドゥルーズとかバトラーとかラクラウ=ムフとかの難解な言葉を振り回して抽象的な議論を展開しているわけじゃない

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1 渋谷から都市を考える
/東京の東西差
/東京のサブカルチャー的多様性 
/「ヴァーチャルな地元」としての渋谷
/自足した地方都市・横浜
/横浜での中高時代
/ヴァーチャルな渋谷、リアルな郊外
/西荻は「昭和テーマパーク」
/子供とクルマは郊外生活の必需品
/地方都市の視点からの渋谷論
/渋谷のモザイク感
/口コミ情報と「ぴあMAP」
/ヴァーチャルな地元意識
/匿名的な「新しい地元」
/「ニート的」環境をめぐる議論
/「第4空間」としての都市
/「ぴあ」から「散歩の達人」へ
/「散歩の質」の変化
/失効した東京論
/広告都市と広告郊外
/ライフスタイルの闘争

2 青葉台から郊外を考える
/青葉台はいつ誕生したのか
/駅前風景の変遷 
/「トゥルーマン・ショー」的な住宅街
/街に隙間が無い
/均質性の中の差異
/オンデマンドバスからICタグまで
/「郊外」のヴァリエーション
/ジャスコ的郊外とロハス的郊外
/「広告都市」と「広告郊外」の対応関係
/シミュラークル・シティは風俗を排除する
/共同幻想で造られた街
/成城のセキュリティ
/ジャスコーTSUTAYA的空間の侵入
/シミュラークルからストリートへ
/秋葉原と渋谷の共通性
/渋谷もまたジャスコ化する

3 足立区から格差を考える
/記号的空間と動物的空間
/なぜ、ガーデンプレイスは「ジャスコ的」に見えるのか 
/「デパ地下ブーム」が象徴すること
/経済資本と文化資本の切断
/足立区の就学支援
/東西格差の深刻化
/「下流社会」への疑問
/経済格差を覆い隠す装置
/アーカイブ化する六本木
/億ションとジャスコ
/「ジャスコ化」を免れる街はどこか
/足立区と荒川区の差異
/文化-経済-土地の結びつきが崩れる

4 池袋から個性を考える
/池袋と西武
/北京の都市再開発 
/北京の「韓流」タウン
/ヴァーチャル化するエスニック・タウン
/均質な風景とヴァーチャルな多様性
/下北沢再開発をどう捕らえるか
/開発計画の問題点
/何が街の個性を奪うのか
/「世代の町」下北沢
/「若者の通過点」としての都市空間
/シミュラークル的テーマパークと人間工学的テーマパーク
/郊外的風景の侵食
/職能集団の街
/なぜ漫画家は中央線沿線に集まるのか
/風景の東西格差
/都市の記憶喪失に抗して
/都市内郊外のダイナミズム
/もはや「危険な街」は存在しない
/都市のセキュリティ化の背景
/ゴミ出し問題と環境管理

5 東京からネイションを考える
/都市を覆う人間工学的デザイン
/ネイション形成の身体的動機 
/ネイションと世代的再生産
/「バックラッシュ」言説が支持される理由
/「リベラリズムの外部」としての生殖
/リベラリズムは「家族」をどう捉えたのか
/少子化問題がナショナリズムと結びつくとき
/「観念的ナショナリズム」から「血のナショナリズム」へ
/嫌韓分析の問題点
/「生物学的制約」にどう対峙するか
/丸山眞男ブームの背景
/「ローティ的共感」の可能性
/共感可能性の限界?
/「共感」はいかに生み出されるか
/再帰性か、動物性か

/あとがき 北田暁大
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