2014年2月13日木曜日

Complex Geometry & Optimization


北京で進行中のプロジェクトの為にフランスのファサード・コンサルがワークショップにやってきている。

曲面を含んだファサードをどうやってオプティマイゼーション出来るか?どうすれば、一番経済的で、施工性の高い方式で、コンセプトを崩すことなくバーチャルな世界での設計をリアルな現実世界の建材という生々しい物質に落とし込めるかを検討する為である。

3次元曲面を持った建築を扱う時代に入った現代の建築設計の現場においては、設計を行う建築家と共同する形で、ファサードと呼ばれる建築の外形面のエンジニアリングに特化したファサード・コンサルタントとの協同が必須になる。

もちろんこれらの作業は下記のいくつかの条件が当てはまってこそ発生する。

複雑形態を持つプロジェクトであること
複雑形態を可能にできるプロジェクトの規模と予算があること
ファサード・コンサルタントの参加の重要性をクライアントとが理解していること
ファサード・コンサルタントとの仕事の進め方と建築事務所が理解していること

そう考えると、一定規模を超えるプロジェクトであり、ファサードにもスケール・メリットが発生し、さらに少なくないコンサルタントへの設計料を支払ってでも、全体としてプロジェクトにメリットがあり、そのプロセスとデザインを共有できるクライアントの存在が必須となる。

そしてこのようなファサード・コンサルタントと呼ばれるエンジニア集団が世界中で多く増えてきたのは、もちろん複雑形態を扱う建築プロジェクトが世界中で増えてきた事もあるが、その背景にはその建築を可能にしてきた様々な建築技術、施工技術のイノベーションと、アルゴリズムを使った3次元ジオメトリーに対する解析とアプローチの発展があるのは間違いない。

どこの国でもそうであるが、上記の条件の中でどれか一つでも揃わないとなかなかこのコンサルタントと協同する機会は得られず、特に個人住宅などを行っている設計事務所では恐らくこのような機会は一生必要ないといえるであろう。

つまり、どんなプロジェクトに従事しているかで、「建築家」と言えどもまったく違う業務に従事して日常を過ごすことになる。しかし、この複雑幾何学とその適正化、つまりオプティマイゼーションの行程は現在の建築の世界でかなり重要な位置を占めてきているのは間違いない。

昨年話題になった新国立競技場。かつて勤めていた事務所がその設計に当たるということで、友人が担当者として東京でザハ事務所と日本側の設計組織とのやり取りを担当しているのだが、彼からも「日本で複雑形状を扱えて、BIMを理解し、英語と日本語が使えて、日本側の組織とやり取りができる人材を探しているのだけど誰か紹介してくれれないか?」と頼まれているのだが、恐らく今の日本にはその様な建築家はかなり少ないと思われる。

第一にその様な設計プロセスを教育の中で教わってこない。恐らく多くの大学は、原理原則でコルビュジェやカーンといったモダニズムの建築をベースに、プロポーションやレイアウトを重要視する設計課題を行っているはずである。それに対して海外のいくつかの大学では教育の場でアルゴリズムや新しいプラグインを開発するくらい、新しい技術を積極的に取り込んでいく流れがある。逆に言えば、日本の建築教育の場で、これらの流れを正確に意味を把握し、その重要性を理解し、そして技術を理解し、設計の現場でどの様なやり取りがなされているのか?建築家がその時に何を理解していなければならず、何をコントロールしなければいけないのか?そしてこれらの流れが今後の建築の世界にどのような影響を及ぼしていくのか?

これらの事を実感として感じ、真剣に考えて、何が学生に必要かを議論している建築教育の場は恐らく今の日本には皆無であろう。それがもたらす教育課程においての無菌環境。

それに続いて、日本では世界で見られるような複雑形態を持ったプロジェクトがほとんど行われないことにより、必然的にそのような設計プロセスに触れる機会も、そのような施工技術の向上の機会も少なくなってしまっている。デコンやポスト・モダニズムへの反省という面もあるのであろうが、代々木体育館や香川県体育館といった高度成長期にあれだけ国をあげて、世界的にもトップクラスの建築表現を試み、挑戦し、成し遂げていた日本の建築界が、いつの頃からか新しい建築空間の可能性を追い求める事を経済性の問題から出来なくなってきたことが原因となっているのは否めない。

それは同時に、そんなリスクをとってでも、世界的に誇れるような建築プロジェクトを成し遂げようとするクライアント、ディベロッパーや行政がいなくなってしまったということでもある。いなくなったというよりは、「ハコモノ」のトラウマから脱却できない行政にはその様なことを考える事すら出来なくなってしまったのだろうし、ディベロッパーには土地から逆算できる市場を睨んだ想定される売値という安全な方程式だけを求め、建築的価値や世界に誇る新しい空間を作る事の意味は何も必要が無いという、海外の以下に他と差異化できるかを追い求め、自らの価値を高めようとするディベロッパーとは見ているところが大きく違ってしまっている事も大きい。

そんな訳でできるだけこれから建築の実務の世界に入っていく建築を学ぶ若い学生などには、一体どんな事が現行の建築設計の現場で行われているのかを知識として得ておく事はとても重要な事だと思うので、誰かがどこかでこのページに辿りつき、それがその後の進む道の何からしらのガイドになればと思う。

そんな訳で話を戻すと、現在この分野で世界的に名が知られているファサード・コンサルタントを挙げてみると、

Gehry Technologies (GT)

Arup

Front

Inhabit

など様々な会社がそれぞれの強みを武器に世界中を舞台にプロジェクトを進行させている。そして今回のプロジェクトで協同することになるのは、ピーター・ライス(Peter Rice)という建築を学ぶものなら必ずその名を聞いた事のあるアイルランドの構造家が立ち上げたRFR(Rice Francis Ritchie)。

RFR

ピーター・ライスはシドニー・オペラハウスやポンピドゥー・センターなどを手がけた世界的構造エンジニアであり、その芳醇な経験は新しいエンジニアのあり方としてRFRへと受け継がれていく。

さてオフィス内でも元GTで働いていたスタッフを雇い入れ、「Digital Project」を使いながら、それぞれの曲面をロジックに沿いながら最適化していく作業を繰り返し、最初がどの様な形状で、どのような目的でどのような方法を採用して最適化したかと各ステップごとにまとめ、その行程を何度も繰り返し最終的にたどり着いた形状を資料としてまとめ、3次元データと共に渡しておく。

フランスからやってきたRFRのエンジニアが彼らの上海オフィスからやって来た上司と共に、北京に1週間滞在し、まずはプロジェクトの把握と、彼らが進めてきた最適化の方向性を理解し、それをまずは建築事務所と議論しながら、方向性を探っていきながら、最後の二日間はクラインとも交えてどの方式を採用するかを決定してというワークショップである。

最適化はあくまでもコスト、施工性、素材の加工性、建材の大きさ、建築のコンセプトなどとバランスをとりながら、不安定な道の上をうまく進んでいくような感覚である。もちろん、関係してくる雨水排水や通気溝との納まりやメンテナンスの容易さなども考慮しながら、局所的な目的と、大局的な目的を視界の端々に捕らえながら、ローカルの最適化とグローバルな最適化を共に頭の中に知れながら進めていくことになる。

クライアントの要望としては、もちろんコストカットが一番な訳であるが、そのために美しい曲面の外装をすべて一枚一枚平坦な直線のガラス面で置き換えることは、いくら納まりを工夫したところ、反射や透過で直線の集合体で曲線を表現したことが見え見えとなり、それは建築事務所として求めるところでも、クライアントの求めるところでもなくなってしまう。

それらのことを防ぐ為に、まずは建築のコンセプトを説明し、どこをキープするのがこのプロジェクトにとって一番の肝かを理解してもらう。それに続き、プロジェクト・アーキテクトと一緒になって彼らがフランスで進めてきた最適化の方向性について説明を受ける。

上記したように、様々なパラメーターを同時にコントロールしていく。同じ目的地にたどり着くにも、まったく違う道を通っていく事もある。それにはすべてロジックがあり、数学と物理を駆使した数値の後押しがある。

この時に、エンジニアが何を目的として、どんな方法を考え、各ステップでの個別の目標は何かを正確でなくても、ある程度理解しつつも、それが建築事務所の求める結果に向かっているかを判断する能力が建築家にも求められる。ここで話されるのはディテールやフレーム、構造などの通常の建築用語に加えて、サイン・コサイン・タンジェントにローカルとグローバルのでの参照面に対しての法線や角度、xyzのどの軸を対象とし、どのパラメーターを操作するか。

パネル化のサイズをどれだけに抑える事で、各パネル間のギャップがどれだけになるのか。その隙間はブラケットで吸収できる程度のものなのか、それともシステム的に吸収しなければいけないのか。参照面の4つの頂点からの距離がどれくらいに抑えられるのか。角度と回転を制御し、排水や、防水、汚れの流れをイメージし、捻りとシリンダーの精製方法の違いがどうコストに跳ね返るかを理解していく。

こういう話は聞いていればいいのではない。会議室に座って、なんだか最先端の技術の話を勉強になるなとレクチャーの様に聴いていることは誰にでもできる。そうではなく、いつか中学か高校の教室でならったあの知識と脳の奥から引っ張り出し、彼らが何を見ているのか、何を目指しているのか、何を話しているのかを真の意味で理解し、それを使いこなす。彼らの視点からは見えない、建築家の視点で意見やアイデアを出し、プロジェクトにとって生産的な方向に議論を進めていくこと。

ガラスを工場で曲げるためには、オーブン装置に入れて熱してやらなければいけない。その機械のサイズを知らなければどのように最適化できるかも分からない訳である。そしてその機械のサイズに対して、どの角度でガラス版を入れるかにより、それぞれのガラス板の最大サイズが求められる。その数値から再度建築に戻り最適化と分割化を行っていく。

デジタルから生々しいモノのレベルを何度も何度も往復し、数学と物理という自然界を支配する学問の知識を総動員させながら、グラスホッパーの複雑なアルゴリズムを駆使して最適化を進めていく。

普段のデザインの時間とはまったくことなった脳の部分を使用しているのを理解しながら、こちらの意見を出し、一定の方向性を決めて、これから一週間、毎日こんな時間を過ごすのかとどっと疲れを感じて会議を終えることになる。

ちなみに上記上げた他のファサード・コンサルタントとも、別のプロジェクトで協同しているのだが、それぞれの会社に違った特徴や仕事へのアプローチがあり、やはり技術といっても単純に何が優れ何が劣っているとは言えず、結局はそれを使う人間の資質に関わってくるものだと改めて思う事になる。

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