2013年5月11日土曜日

「ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!」ベス・カーグマン 2011 ★★

ユース・アメリカ・グランプリという世界最大級のバレエコンクール。そこに挑む世界中の若いダンサー達。ある子供奨学金を求め、ある子供は有名バレエ・カンパニーでのポジションを目指し、それぞれの年代のカテゴリーで将来有望とされる人材が競いあい、それこそ10年後世界のトップバレリーナがここから出てくるような大会。

各地での地方予選を勝ち抜き、ニューヨークで行われる最終審査に出場する6人の子供達。その家族、先生、練習の様子など長く密着し、バレエという華やかな世界の裏で起こる、舞台の上からは決して見えることが無い様々なドラマを描き出す。

監督も元々はバレエをやっていただけに、子供がバレエを本気でやることで家族はバレエ中心の生活を強いられ、他の競技よりも経済的負担の多さなど、経験者ならではの鋭いまなざしでのドキュメンタリー。

野球やサッカーといったメジャーなスポーツの様に、通常の生活をしていても周囲の影響で足を踏み入れるような競技とは違って、小さなころから家族のサポートや家族の意図が無い限り、子供にとってはテレビの向こう側のスポーツが様々ある。ゴルフやフィギュア・スケート、モータースポーツ、そしてこのバレエ。

恐らく浅田真央もジュニアの頃はこうして世界を転々としながら、様々な地でセンセーションを撒き散らし、これは凄いタレントだと言われながらも、厳しいプレッシャーの中、次から次へと出てくるライバル達と戦っていたのだろう。

グローバル社会が成熟し始め、競争の境界線が消滅し、その世界で上に行こうとすれば同じように強い志を持ち、ストイックな気持ちで毎日を過ごしている世界のライバル達と戦わなければいけない。しかもその戦いは幼少時代から始まり、少しの気の緩みも許されない。

それが嫌ならば、どうぞその戦いから身を引き、普通の少年時代を過ごしてください。それでも次から次へとトップの席を目指して努力をし続ける人間は腐るほど出てくるのだから。

と突きつけるばかりに、競争の激しさはどの世界も加速度的に際限無しに厳しさを増すばかり。踊ることが楽しくてしょうがないと一見みえる子供達も、いつか「なぜ踊るのだろう」と悩む日が来て、それを乗り越え、今度は楽しいだけではない何かのために踊ることになり、それが生活の一部として消化していく。その時もまだ、世界で一番を目指しているのが幸せなのかどうなのか。

競争が日常となる世界で生きることの厳しさを示すと共に、競争が業界の基礎となっているために起こっていくイノベーション。勝ち負け、優劣のハッキリする世界の中で常に緊張感を持ち続けることが出来る人間は、それだけで立派なものだと思わずにいられなくなる一本。


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作品データ
原題 First Position
製作年 2011年
製作国 アメリカ
上映時間 94分


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第36回トロント国際映画祭観客賞/ベスト・ドキュメンタリー賞受賞
2011年NYドキュメンタリー映画祭ベスト・ドキュメンタリー観客賞
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