2012年9月5日水曜日

20分

夜の19時過ぎ。やっと自分のデスクに座ることができた。

かと思ったら、修正部分についての打ち合わせをしようとアモイで進めているプロジェクトの担当者がやってくる。そうだった・・・と思いながら、再度気を奮わせて打ち合わせに。

20時過ぎに打ち合わせを終えて振り返ると、結局今日一日自分のデスクでモニターを前に過ごしたのは20分足らずだったと驚き、そんな日は脳への負担も大きいはずだと、帰り道には十分気をつけようと自転車を飛ばす。

ハルビンで進めているオペラハウス。

建築家としての一生でオペラハウスを設計する機会があるというのは、実に稀であり、またとても幸せなことだと思う。ロンドンで働いていたザハ・ハディド事務所にとっても、オペラハウスはカーディフからの念願で、やっと中国・広州にて実現した思いの強いビルディング・タイプである。

オペラという視覚と音響の芸術だけあって、建築に求められるのは美しさとともに、素晴らしい音響空間を作り出す楽器としての要素。

朝の9時から施主、施工図担当の設計院、内装設計会社、アコースティック・コンサルタント、舞台音響のコンサルタント、舞台音響の専門家達経ちがオフィスに集まり、現状の音響設計の説明と、建築意匠の説明を踏まえて、如何に世界で一番の音響空間を作れるか、舞台音響の専門家達がそれぞれに意見を出し合う。

新彊のあのホールは低予算だったけど、音響空間はあれあれ、これこれでよくできているなどや、719やyamahaがどうのなどの専門用語が飛び交う中を、想像力でピースを埋めながら話についていき、とにかく舞台音響コンサルが一番ベストな設備情報をこちらに提供することで会議が終了。

既にお昼時で専門家達は施主達とともにランチに行くが、こちらはサンドイッチを頬張りながら午前中に溜まったメールの処理をする。

内装設計会社の担当者と、舞台音響のコンサルタント、アコースティック・コンサルタントに残ってもらい、具体的なスピーカーの処理の仕方、大きさ、向き、角度などを準備してあったファイルを元に一つ一つ質問し、それぞれにとって一番良い解決法を議論する。

舞台音響にとっては、でかい穴を壁に開けて、どんな風にでもスピーカーの角度を変えれるようにしておくのが、それはそれはベストとなるだろうが、できるだけ建築側のデザインを踏襲しながら、かつ1600あるどの席にも主なスピーカーから直線で音が届く事が必要で、さらにそのエリアをカバーするスピーカーが必要となってきたりと、大空間に大人数が一つの劇を音の到着するまでの時差を考慮しながらもベストの状態の音環境を作り出すには、それこそコンマ何秒を追いかけながら、見えないものを設計することが必要となる。

施主とのランチで思わぬ量のビールを飲んだからなのか、それとも毎日大音量のスピーカーに囲まれているからなのか、あきらかに自分の声量のコントロールのタガが外れ、こちらの鼓膜を痛めるような声量で話続ける舞台音響のコンサルタントにちょっと黙っててもらい、現状のデザインをもとにした設計からの質問および調整事項を説明し、それに沿って舞台音響の提案をやり直してもらうことにする。

打ち合わせが終了し、更にあがってしまった声のボリュームの舞台音響のコンサルタントから逃げるように、今度は外装材のアルミパネルを最適化してくれているBIM・コンサルタントとの打ち合わせに。

そのコンサルは、Gehry Technologies通称GT。

ゲーリーはもちろんFrank Gehry(フランク・ゲーリー)からきている。3次元曲面を多用するゲーリーの建築を解析するべく奮闘していたリサーチ・チームから発展し、世界的に広がった自由曲面の建築を解析し、最適化して建築材に落とし込むことに特化した別会社として立ち上げられた BIM・ コンサル。

このオペラハウスもその複雑な外形を最適に解くために、GTの手助けを借りているのだが、それでもなかなか進まないオプティマイゼーション(最適化)の為、担当者チーム3人をこちらのオフィスに送ってもらい、一週間の駐在としてもらって一気に作業を進めるようにしているので、その進行状況をチェックする打ち合わせが毎日行われる。

コンピューター上に存在する複雑な3次曲面を現実の世界に存在する建築を構築する一部材とするために、様々な要素を考慮しながらも一番デザインをより良くするであろう方法で分割線を決定していく。

中国での施工レベルと、3次曲面の現場での施工性、如何に誤差を目立たなくすることができるか、どうやったら全体のデザインコンセプトとかち合わないか、オランダ人のプロジェクト・アーキテクトと中国人のプロジェクト・マネージャーがそれぞれの意見をぶつけ合わせ、ほとんど喧嘩の様になってくる。

どれが一番ふさわしい方法かと必死に頭を捻りながら、言い合う二人の姿を見て、そこまで熱くなるほど、少しでもこのオペラハウスを良くしようと夢中になっている証拠だなと、なんだかハッとさせられる。

とりあえず意見を取りまとめ、考えられる方法を3つほど試して明日再度確認することにして、今度は構造材から防水層、断熱材、サブストラクチャーを考慮した700mmのセットバックが最新の構造模型を入れていくと、ところどころで問題があるということをGTが見つけ出し、どう処理するかの打ち合わせに。

クラディング、壁、床。それぞれの部分でどこが問題か3次元ですべて確認し、それぞれ施工図から断面、平面を確認し、担当構造コンサルに確認し、ファサード・コンサルタントに確認する。納まりの変更で対応できるのか、それとも外装の形状を変えなければいけないのか、またしても喧々諤々の議論になり、いくつかは構造とファサードのコンサルと踏まえてでないと結論が出せないとのことで、急遽明日の打ち合わせを打診して、GTが駐在できる今週中に目処をつけれるように段取りをする。

議論のほとんどが中国語で行われ、時々分からない言葉は隣でオランダ人のプロジェクト・アーキテクトに通訳をしている中国人スタッフの言葉を右耳で聴きながら全体を補い、それで中国語で質問や議論はしなければいけないので、かなりの集中力を要求され右脳も左脳もごっちゃになって打ち合わせが終わるたびにクタクタになる。

やっと戻ってこれた自分のデスクで溜まったメールにがっくりとうな垂れていると、アモイで進めているプロジェクトの担当者が呼びに来てくれ、気合をいれてクライアントのトンでもない要求により提出したSDも、掘り出した現場も関係なく変更を余儀なくされたデザインの更なる修正と、金曜日に迫ったこちらの構造コンサルのARUPに渡す基本平面図について話し合う。

どうやったって放り投げることはできない中で、如何に楽にできるかを考えると、それはできだけの自分自身の時間と効率のオプティマイゼーションしかなくて、その為にも少しでも早く完璧な中国語がかかせないなと思いながら、家に帰ってからの中国語の宿題に頭を切り替え、語学は右脳か?それとも左脳かと考えながら月の照らす夜道を飛ばす。

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