2012年8月22日水曜日

コンサル地獄

「絵に描いた餅」

では無いが、建築業界もプロジェクトの規模の巨大化、設計業務の複雑化に伴い、その業務の細分化およびプロフェッショナル化の動きが激しい。

住宅規模ならば、一級建築士として登録し、一級建築士事務所として登録してあるならば、言ってしまえば一人で設計を進め、規模によっては構造家に構造計算をお願いし、施工会社が決まった段階で、担当者と設計内容について刷り合わせるという形で、非常にシンプルに物事が進む。

と言っても、施主の要望を建築という形を持つ空間に変換し、それを物理的に成り立たせる為に、構造家と設計の意図を壊さないようにすり合わせ、さらに施工会社と予算および施工方法の観点から、より良い修正方法などが無いかと一緒に悩み、施主の求める予算と工期の中で物事を決めて前に進めていく。その調整作業はかなり複雑で、如何に起こりうる問題を想定しながら今の設計を進めるかが建築家に求められることとなる。

それがプロジェクトの規模の増大に伴って、ある一点より大きくなるとそれはもう一人の建築家でカバーできる範囲を超えて、設計に対する「間合い」も変えていかないと対処できなくなってくる。

そこに搭乗するのが、竹の子のように現れるコンサルタントとよばれるプロフェッショナル集団。

例えば、今進めているあるアパレル会社の新社屋ビルのプロジェクト。

クライアント自体はアパレル会社なので、実際に建物を建てることとそれを資産として管理することを目的として、プロジェクトの実質的なクライアントの位置づけを担うディベロッパー。

ディベロッパーの要望を元に、設計事務所と様々なコンサルをスケジュールに沿ってプロジェクトを進めていくプロジェクト・マネージメント会社。

建物を地盤や地域の風加重、また建築の外形によって変わる構造的特性を解きながら、複雑な挙動を起こす部分をしっかりと安全を担保しながら成り立たせるように構造設計を進めてくれる構造チーム。

オフィスもあれば、レストランもあり、会議室もあれば、多機能ホールもあったりと、一つの建物に使用人数も形式も異なる空間が多数混在するときに、その空調や水などの問題を解決するのが建築設備の領域。英語で言うとMEP(Mechanical Electrical Plumbing)という。それを主に担当するのがMEP・コンサルタント。

昨今のエネルギー問題に比例するように建築の中で重要な位置を占めるようになってきたのが環境設計。建築内部の熱環境をどう処理するかを主に担当する。コンピューターの処理速度の向上に伴って、さまざまなシュミレーションソフトが開発されて、地域の季節後との風の流れからどのような風加重が建築に与えられ、どのような開口部だとどのような影響を与えるか。また気温や湿度とともに、風速のパラメーターを使用して、内部にどのような熱環境を作り出したりするか?ということを主に担当するのが、環境設計コンサルタント。

そしてLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)。上記の環境にも関わってくるが、地球環境に与える影響の大きな建築業界だけに、できるだけ環境に配慮した設計や工法を採用し、それを評価していきましょうという流れの中生まれたあまたの評価基準の中で、この10年ほどかけて、やっと集約され世界的基準として認識されてきたのがこれ。建物のいろいろな分野にポイントが振り分けられており、それぞれの項目をクリアするとポイントが加算されると言う、ゲーミフィケーションの典型のようだが、Totalで110あるなか、80以上でPlatinum、60以上でGold、50以上でSilver、そして40以上でCertifiedとなる。今回はGoldを目指すと言うことで、LEED担当のコンサルとここをこうやって変更すると何点稼げるからどうします?みたいなことを繰り返す。

What LEED Is

次がファサード。建築の中で一番外部に接しているのが建築を覆う外装材で、その表面をカーテン・ウォールとかスキンとかファサードだとか呼ぶが、複雑かつソフィスティケートされていくその外装をどう作り、どう建築家の求めるイメージに近づく解決法を見つけていくかを専門にするのがこのファサード・コンサルタント。

そして、ランドスケープ。20世紀的なアメリカのランドスケープ・デザインの考え方を学んだ世界中のランドスケープ・デザイナーが、各国に戻ってそれぞれの国も気候などにあわせながら、建築と大地を繋ぐ敷地にどのような快適なグリーン空間をつくりだすか。また建築内部に配された庭園空間にどのような空間をつくりだすか。それを主に担当するランドスケープ・デザイナー。

これだけ大規模の建物になってくると、通常建築事務所とは別に、内装を特化して設計するインテリア・デザイナーが入り込む。今回の場合では公共空間に関しては建築を担当する我々がインテリア・デザインを担当し、その他のオフィス内部の空間などは別のインテリア・デザイナーが担当する。

1800人もの従業員が働くオフィスなので、お昼時には社員食堂は大変な混雑となる。地下に設けられるその食堂空間および、厨房内部の設計を行うのがキッチン・コンサルタントで、どのような動線にすれば、一番効率的に人をさばけて、どのような厨房の配置にすれば、外部からの搬入や食堂への搬出がスムースにいくか?などを検討する。

人が使う空間であることと、新社屋として会社のイメージを担うことを踏まえて、通常の機能的な照明に加えて、外観を魅力的にその建築概念を伝えるための別次元の照明計画が必要となってくる。その照明効果および照明の設計を行うのがライティング・コンサルタント。

オフィスであることと、新社屋であることはある種の音響環境を要求する。もちろん、ショッピング・モールの様な反響する堅い空間は望まれず、できるだけ落ち着いて仕事に集中でき、商談がスムースに進むような空間が必要とされ、その為に各空間の音響設計を行うのがアコースティック・コンサルタント。

これだけ複雑な形状をした建築になると、一つの変更が多くの付随する変更を引き起こし、それは果てしない時間のロスを生み出す。それを解決すべく設計から施工図製作および、施工段階まで。また各コンサルタントの共通プラットフォームとして建築の設計の現場に導入が始まっているBIM System。その統括をするのがBIMコンサルタント。

そして、設計事務所の意図を汲み取り、それを施工するために必要な様々な施工図を作成する役割を担うのが設計院といわれる集団。比較的早い段階より設計プロセスに参加してもらい、その豊富な経験と知識を活用し、複雑な法規の理解の仕方や、各コンサルタントとの設計面からの調整を行ってくれる。

以上がこのプロジェクトに関わるコンサルタントである。しかもいつの時には、形的には常に建築事務所と各コンサルタントが直接やり取りをすることになり、それぞれに建築的な空間のコンセプトとどのような空間を作り出そうとしているか、各コンサルにどのようなことを求めているのか?などを説明し、プロセスの過程で逐一チェックをして、方向性の修正を行うのも建築事務所の役割となる。

例えばキッチンのコンサルが厨房の効率的利用の為に、ここの壁を動かした方がいいのだが可能かどうか?などと問い合わされ、建築的にはOKだか構造的に問題があるかもしれないから、構造のコンサルに問い合わせるのも建築事務所。構造的にはOKだが、設備に影響があるかもしれない。と言われて設備に話を振るのも建築事務所。これなら大丈夫だと確認が取れて返答をし、さらに変更があったということを別のコンサルたちに伝えるのも建築事務所の役割。

しかもそんなにうまく調整がつくのは稀な話で、通常はそれぞれのコンサルが自分にとってやりやすいように設計を変更したがるのもので、例えば構造コンサルは「この部分の長期加重が厳しいので、ここに2本柱を立てても良いか?」なんて聞いてくるので、空間の良さを保持するためにはどうしてもそれは無理ですと答えながらも、ならば・・・というカウンター・プロポーザルを出さなければいけなくなる。

デザイナーというだけに、ランドスケープ・デザイナーも様々なアイデアを出してくるが、皆が好き勝手にデザインし始めたらどこかの遊園地になってしまうので、建築空間がどういうコンセプトでどのような雰囲気を願っているのかを説明し、対立するのではなくチームとして一緒の方向に引っ張っていくことも必要となる。

そんな訳で一日に必ず何かしらの問題というものが持ち込まれ、少しでも解決が遅れると、宿題が溜まるだけでなく、さかのぼって解決するなどということが不可能になり、より大きな問題に繋がるだけなので、できるだけ早く解決への道筋をつける能力が建築家には求められてくる。自ら問題を見つけ、一番良い方法で解決できるようにする。

これだけのことにまともに向き合っていたら半分も処理できずに、問題ばかりを大きくするばかりなので、それぞれに担当者が対応するようにし、全体的に何が行われていて、どこが問題になりそうかを、さらーっという感じで捕らえておく。そうすると、このメールの内容がまだ未処理だとか、この問題はすぐの対応が必要だとか、これは自分で返信をしなければいけないだとかの勘が冴えてくるようになってくる。

しかし問題なのは、このくらい多くのコンサルが入ってくる段階のプロジェクトが2,3個重なってくると、「14時からライティング・コンサルとの打ち合わせですよ」と言われても、どのプロジェクトに関してか、思い出すのに数秒かかることとなる。

まさに地獄だが、地獄の中でも学ぶことはあるるように、これだけの専門家と共に仕事をしていると最先端の知識から専門的技術など、多分野の多岐にわたる情報と知識を一気に獲得する機会が豊富にあることと同義だと自分の海馬をごまかして、明日もまた地獄の中を前へ前へと泳ぐことにする。

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