2010年5月12日水曜日

「そんなバカな!―遺伝子と神について」 竹内久美子 文春文庫 1994 ★★
















個体は遺伝子レベルでみると、必ず利己的な振る舞いを行う。しかしたまに他を利するふるまいを行う。血縁的に近ければ近いほどに。そこに見える自己犠牲の精神とは何か?

社会性昆虫として知られるハチ。社会性とは生殖と労働の役割分担がハッキリし階級(カースト)が現れること。

労働は行わず、産卵の為の生殖に励む女王。
生殖のために存在する1割のオス。
そして産卵は行わず、ひたすら労働と妹、弟の世話に明け暮れる9割のメス(ワーカー)。

割が合わない様に見えるワーカーのメス達はなぜ文句も言わずに働き続けるのか?それを暴く為にまずは女王の産卵のシステムを見ていく。

9割のワーカーと1割のオスという、ある国でかつて行われたバース・コントロールのようなアンバランスな数値。女王は意識的にこのバランスを生み出しているのかといえば、そうではない。まずハチの持つ特殊な産卵のシステムを見る必要がある。生殖を行った女王は、取り込んだ精子を体内のある場所に保存しておく。そして産卵時にそれを卵子に受精させるか、もしくは受精させることなく卵子を産卵する。ここで受精卵はメスに、そして未受精卵はオスになるという極めて特殊なシステムを持っている。これが後ほどミソになる。

女王は産卵の為にまず巣室をチェックする。それが標準の広さならばメスを、つまり未受精卵を、そして少し広い巣室ならばオスを、つまり精子と卵子を受精さえて、受精卵を産卵するという。こういうわけで1;9のバランスは生まれる。

それでは、誰がこの比例を生み出しているかという問題だが、女王は遺伝子に操られ巣室のチェックとその広さによる反射によって産卵を行っているだけで、本当は巣室を設計した設計者によってコントロールされてることになる。そしてその設計者はメスのワーカー達。

では、なぜワーカー達はそんなことを行うのか?

ここでハミルトンの血縁淘汰の理論を適用する。血縁度つまり血の濃さで考えてみる。人間などの通常の生殖においては、親と子では1/2。兄弟でも1/2。祖父母とは1/4。イトコになると1/8。それが、特殊な生殖システムを持つハチでは、対の染色体を持つメスは倍数体と呼ばれ、片割れの染色体しか持たないオスは半数体と呼ばれる。ここで3者の血縁度を見てみる。

女王とワーカーでは、どちらからみても1/2。

女王とオスでは、オスバチは倍数体となるから、オスバチから女王を見た場合は1。逆に女王からオスバチを見た場合、染色体の量が半分だから1/2となる。

ワーカーとオスバチの場合は、倍数体のメスと半数体のオスであるから、ワーカーからオスバチを見た場合1/4。

そこで問題のワーカー同士。遺伝子の半分は父親からだから、その分は1/2 x 1=1/2。女王からの半分は五分五分で遺伝されるので、1/2 x 1/2=1/4。その合計は 3/4。

驚異的な数字である。自分が産んだ娘でも1/2となるが、それよりも高い3/4。つまり自分が産んだ娘が女王になるより、女王にメスを産ませその中から次期女王の方が得。得というのはどういうことかというと、その方が自分の遺伝子を次世代に残せるということ。自分という個体が消えても、自分を構成した遺伝子が残ることが重要であるという、利己的な遺伝子のふるまい。

最も効率よく、自分の遺伝子を後世に残す血縁淘汰の現象。

動物の行動を根底で決めるものは何か?
本当に利己的なものは一体何か?

何が利己的か --------- それは遺伝子である。

では生物とは何か --------- 遺伝子が自らのコピーを増やすための生存機械にすぎない。

乗り物の主体は最初から遺伝子の側に握られていたわけである。


遺伝子という利己的なやっかいものに振り回される人類の前に現れる、もう一つのミームという名の曲者。

遺伝によらず伝達される文化、行動、行動様式、技術。個体の脳から脳へコピーされ、頻繁に起こるミスにより更なる進化を遂げる。遺伝的伝達の単位であるのが遺伝子で、文化的伝達の単位がミーム。伝達の速度が極めて速く、伝達が非血液者の間に起こるという曲者。人間は遺伝子とミームという二種の自己複製子の乗り物であるわけだ。


個々の人間は利己的自己複製子の乗り物として初めて平等である。
遺伝子は乗り物の植上に乗り物を作らないし、乗り物の下にも乗り物を作らない。

と最後をしめる著者の言葉。

グローバリゼーションによって、ミームの突然変異の発生速度は爆発的に加速すると思われる。コピー&ペーストの中に生まれる、新たなる利己的なふるまいを見せる建築的ミーム。我がままだけど魅力的なそんな空間たちを遺せる様に頑張らなければ。

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「種の起原」 ダーウィン 
「生命の起原」 オパーリン
「利己的な遺伝子」 R.ドーキンス
「遺伝子の分子生物学」 ジム・ワトソン
「二重らせん」 ワトソン
「熱き探求の日々」 クリック 
「ゲームの理論」 ジョン・フォン・ノイマン
「狩りするサル」  ロバート・アードレイ
「人間の本性について」 エドワーズ・O・ウィルソン
「裸のサル」 デズモンド・モリス
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